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第147号 人と碁石は使いよう

かなり前、
同僚とともに関与先の会社のある工場に出張したときの話です。

工場長は50代半ば、あと数年で定年という年齢です。
その次の世代を担う主任が40代前半で工場の内容や経理は
よく把握しています。

しかし、この主任、40を過ぎているというのに
外部者の私の眼から見てもなんだか頼りない。

スニーカーのかかとをつぶして、つっかけのようにしてずり歩き、
工場の帽子をちょっとずらして、あんちゃんかぶり。

本社や営業部とは異なり、製造を職務とする地方の工場では接客が
あまりないため、
このような格好でも日常は問題になることはないようなのです。

しかし、それにしてもこの主任は
少なくとも幹部候補には見えないのです。

夜、工場長とこの主任と会食したときに
工場長はスーツに着替えてきましたが、
主任は工場の作業着のまま。
靴もかかとのつぶれたスニーカー。


さすがに、私たちの前にもかかわらず、
工場長が
「先生方と会食するときぐらいはスーツを着て来い。
ロッカーにスーツとネクタイぐらいは置いておけ。
革靴も準備しておけ。」

と主任にお説教。
部下の恥は自分の恥というわけでしょうか。
あるいは私たちに対するいいわけ代わりだったのかもしれません。


数年後、再びこの工場にお邪魔しました。

先の工場長は定年退職し、当時の主任が工場長になっていました。
私たちを迎えてくれたその姿を見て、一瞬あのときの主任とは
気がつきませんでした。

落ち着いた物腰に、しっかりした語り口。
会食の時は革靴にスーツとネクタイ。
押しも押されもしない立派な工場長でした。


地位は人を作る、
といいますが、これほど極端ではなくても
こうした例はほかにもたくさん見てきました。

潜在的能力に気づいて地位を与えた先の工場長と
会社の人材登用も立派ですが、
たいていの人間は地位を与えると、それなりに仕事をこなす、
といわれます。


碁石も人間と同じ。
いや、地位さえ与えれば人間より確実に働きます。

碁石の地位というのは碁盤上のポジション。
力の発揮のしようのない場所に碁石を置いても
その石は役に立たずに腐ってしまうだけ。

そのときどきの局面において、
もっとも有効な場所に置かなければ、石は働きません。

たとえ取られても十分働く石もあります。
逆に、取られなくても実質死んでいる石は多いものです。

人材登用と同じくらい、真剣に
石を置く場所を考えるだけで1目、2目なんて簡単に上達します。


囲碁が上達しない人、
特に職場で管理職の方は気をつけないといけません。

もしかしたら、
囲碁が上達しない人は人材登用もへたなのではないかという意味で
幹部や管理職の地位にいる資格がないと思われているかもしれません。

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