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第32号 戦いの美学

勝負事のかなめは攻めと守り。
そして戦いの原則は相手の弱いところを攻めること。
格闘技の世界ではこの原則を破って勝つ者はまず、いません。
囲碁も同じです。

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もう、20年前の話になってしまいました。
1984年(昭和59年)、ロサンゼルス・オリンピックの柔道、決勝戦。
最強の男といわれてきた日本の山下泰裕vsエジプトのラシュワン。
山下泰裕の金メダルは当然と思われていましたが、準決勝で右足を負傷してしまいました。

負傷した右足を攻められ、もろくも崩れ落ちる山下の姿が脳裏をよぎります。しかし、ラシュワンは山下の右足を攻めませんでした。
もちろん、山下が右足を負傷していることは知っています。

結局、山下が勝って金メダルを手にしました。
ラシュワンは終始山下の負傷した右足を攻めることなく正々堂々戦い、
金メダルを逃しました。

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相手の弱いところを攻める・・・というのは奥の深い言葉です。
相手の怪我しているところを攻めてはいけないという、ルールはありません。相手の負傷箇所を攻めて勝っても立派な金メダルであり、それを責める人はいません。

しかし、怪我をしている相手をいたぶって勝ったとしても誰よりもラシュワン自身が自分を最強の男と認めることができなかったに違いありません。
それが彼の勝負に対する美学だったのかもしれません。

金メダルを獲得しても人の記憶からはすぐ忘れられてしまいますが、この話は20年経った今でも美談として語り継がれています。
スポーツなら怪我のない状態での相手の弱点を狙うのが「相手の弱いところを攻める」と言うことの本当の意味なのかもしれません。

囲碁では怪我はあまり関係ないので、ルールとマナーさえ守れば遠慮なく相手の弱点を攻めていただきたいと思います。
ただ、相手がアタリに気がつかないのをいいことに、ここぞとばかり急いで石を取り上げて、したり顔という人をよく見かけますが、これはルール違反ではありませんがマナーのよい態度には思えません。

そんなことで勝っても強くはなれません。
目先の勝ちより最後まで競った対局を楽しみたいという気持ちの方が上達が早いかもしれません。

アタリのときは
「アタリです」
と言ってあげるくらい余裕を持って囲碁を楽しんでいただきたいと思います。でも、これはなま碁での話で、ネット碁では手戻しするわけにもいかないし、いちいちチャットで
「アタリです」
なんて言っていられませんね。

まあ、これは「戦いの美学」。
石の生き方ならぬ人生の生き方の問題と言ったら大袈裟でしょうか。

相手に酒ををすすめ、酔わせてうっかりポカをさせて大石を取ってしまったあなたの場合は・・・と言えば、
状況は「相手の怪我した足を攻める」に近いかもしれません^^;


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